小説では、良く見かける比喩表現。
この比喩を文章に取り入れることで、自分らしいユーモアな文章を書くことができるようになります。
ただし、比喩は書けば良いというものではありません。
状況に応じて、比喩の種類を使い分ける必要があります。
どのような場面で用いるべきなのか、比喩の使い方を例文に沿って解説します。
比喩する意味とは?
比喩とは、分かりやすく言えば例え話です。
事実をそのまま記述するのではなく、相手にイメージしてもらいやすいように誇張して表現する技法です。
これこそ、比喩する理由に直結します。
文章の中には、いくら文字を積み重ねても理解しづらいものがあります。
人間の顔立ちは、まさにこれに当てはまります。
読み手に意味が通じなければ、例え事実であっても内容が入ってこなくなるのです。
この例文を見れば、そのことがすぐに分かるでしょう。
例文
「彼は茶髪で、鼻が高く、顎がシャープだ。頬もすっきりしており、四十歳を過ぎても髭一つ見当たらない。とくに目力が凄く、見ているだけで吸い込まれそうだ。男らしいキリっとした眉も、彼の顔立ちを際立たせていた」
この文章は、話者が『彼』の見た目をそのまま記しています。文章としては、なんの間違いもありません。
しかし、顔の説明だけでこれだけの文字数を使われたら、読み手は疲れてしまいます。
顔の説明だけならまだしも、この調子だと身体の特徴まで詳しく書かれてしまいそうです。
この例文を見ても分かるとおり、事実を書き記しても伝わりづらい場合があります。
こういった場合、文章を比喩する必要があります。
例文
「彼は木村拓哉のような顔立ちだった」
どうでしょうか。『木村拓哉』という名詞を使っただけで、さきほど書き出した特徴がすべて凝縮されていると思います。
このように、比喩は読み手に内容をイメージさせやすくするばかりか、文章を簡潔にすることができます。
何より、読み手にその文章を印象づけさせる効果があります。
書き手が表現する内容とは、極端にいえば自己中心的です。
小説の中でオリジナルの言葉が出てきても、すぐに覚えることができないのはそのためです。
しかし、読み手が自分で表現(イメージ)した内容ならどうでしょうか? きっと、記憶に残るはずです。
比喩を使うことで、それぞれのシーンを読み手にイメージさせることができるため、記憶に残る物語が書けるのです。
もちろん、これは通常の文章でも同じことが言えます。
相手にどうしても伝えたい内容があるのなら、比喩を使って表現すべきです。
比喩することは、そういう意味があるのです。
比喩の種類と表現の違い
一口に比喩といっても、様々な表現方法があります。
そのため、使い方によって種類が分けられています。
比喩の種類とその違いについて、詳しく見ていきましょう。
直喩
直喩とは、比喩であることが文章を見れば分かる技法です。
比喩を明示しているため、明喩とも呼ばれています。
比喩の中では、もっともメジャーな表現方法かもしれませんね。
例文
氷のように体が冷たくなっている。
この文章では、体が冷たい状態を『氷のように』と表現していますね。
人間は恒温動物なので、生きている間は『氷』ほど冷たくはなりません。
亡くなった方でも、『水』が『氷』になる氷点下まで下がることはほぼありませんので、やはり『氷』ほど冷たくなることはないです。
つまり、『氷のように体が冷たくなっている』という文章は、例え話であることが分かるのです。
比喩であることを明示している文章であるため、これが直喩で表現された文章となります。
隠喩(暗喩)
英語ではメタファーといいますが、隠喩も比喩の一つです。
直喩とは違い、文章を読んでも比喩であると判断しづらい技法を隠喩といいます。
比喩を隠す表現方法のため、暗喩とも呼ばれます。
例文
「リングの上では、彼は無敵だ」
この文章は、『〇〇は◇◇だ』と断定しています。
そのため、読み手は『彼は無敵』であると思ってしまうところです。
しかし、ファンタジーの小説ならともかく、現実世界に無敵の人間はいません。
そのため、この文章では『彼は無敵だと思えるぐらい強い』という意味が隠れていることが分かります。
このように、比喩が隠れている表現方法こそ、隠喩(暗喩)なのです。
では、どうして隠喩の表現方法が必要なのでしょうか?
比喩でユーモアな文章を書くのなら、直喩だけ使えば良いと思うところです。
しかし、直喩は文章の流れを悪くします。
比喩であることを知らせているため、珍しい直喩だと「ん、これはどういう意味かな?」と止まってしまい、スムーズに文章を読むことができないからです。
その点、隠喩は比喩とは思わせない技法なので、読み手はスラスラと読み進めることができます。
隠喩が詩で使われるのは、そのためです。
つまり、隠喩は直喩以上に洗練された技法といえるでしょう。
ただし、隠喩は読み手に比喩だと気づかれない場合があるため、使いどころを誤ると意味が通じない文章になってしまいます。
例文
「彼女は天使だ。『ヘブンズゲート』に何度も足を運びたくなるのは、僕だけではないはずだ」
この文章だけ見ると、天使が地上に降り立つファンタジー小説だと勘違いしてしまうところです。
しかし、『ヘブンズゲート』が飲み屋街の一角にある店舗だったらどうでしょう。話はまったく変わってきますね。
それなら、『彼女はまるで天使のようだった』と直喩で表現したほうが、誤解を生まない文章を表現することができます。
換喩
換喩は、あまり知られていない比喩の種類かもしれません。
しかし、実は気づかぬうちに使っている表現方法でもあります。
換喩とは、文章の中にある単語を他の類似語に置き換えることができる比喩表現です。
換喩表現は文章で説明するより、例文を見たほうが理解できると思います。
例文
「もう遅いから、どっかでメシ食って行こうぜ」
こういった日常会話は、よく耳にしますね。実は、この中に換喩が存在しているのです。
それは『メシ』です。
この文章を読んで分かるとおり、話者は『メシ』という名前の食べ物を口にしたいわけではありません。
『メシ』とは、つまり『飯(ご飯)』を指した言葉です。
また、冒頭に『もう遅い』と書かれていますので、この場合は『晩飯(ディナー)』のことを伝えているのです。
このように、『メシ』と書かれているのに『晩飯』の言葉と置き換わっている表現こそ、換喩なのです。
提喩
提喩は、換喩表現の一つです。
そのため、ほとんど同じ意味なのですが、換喩と提喩には違いがあります。
換喩は、使われた単語が他の類似語に置き換わるものを指しますが、提喩は選んだ単語が実際には違う単語を意味している場合を指します。
例文
「本当に困った。このままでは手が足りなくて会場が設営できない」
こういった会話も、よく聞きますね。さて、この中の『手が足りない』が提喩となります。
この話者は、本当に『手』を探しているわけではありません。実際は『人手』が欲しいことを比喩しているのです。
他にも、「せめて水さえあれば……」という表現は、本当はお腹いっぱい食べたい状況を指す言葉となります。
実際は『水』ではなく、広い意味の『食料』を指しているのです。これが提喩となります。
類語のレトリックと誇張法
比喩の種類は、直喩、隠喩(暗喩)換喩、提喩と紹介しました。
実は、他にも比喩と似た表現方法があります。
今回は、レトリックと誇張法を類語として紹介します。
レトリックとは、『巧みな表現をする技法』という意味です。
比喩もまた、『巧みな表現をする技法』であるため、レトリックの一つと数えられるのです。
レトリックには体言止めや誇張法の技法も含まれていることから、つまりはユーモアな文章を書く術を指す言葉なのです。
まさに、比喩と性質が似ていることが分かりますね。
そして、誇張法も比喩と酷似した技法であることは間違いありません。
誇張法とは、大げさに表現することで相手に伝えたい内容を強調する表現方法です。
『100%勝てる』と書けば良いところを『200%勝てる』と表現すれば、これは誇張法となります。
つまり、誇張法は例え話であり、比喩と性質が似ているのです。
そのため、レトリックや誇張法は比喩の類語と位置づけても間違いではないのです。
比喩の対義語
蛇足ではありますが、これだけ多くの種類や類語があると、疑問に思うことがあります。
それは、比喩の対義語とは一体なにを指すのでしょうか?
簡単なところで言えば、直喩の対義語は隠喩(暗喩)です。
直接表現する比喩と隠して表現する比喩なので、ここは分かりやすいですね。
しかし、比喩とはこれらの総称であるため、比喩全体の意味を考えて対義語を見つける必要があります。
ここで思い出すべきことは、レトリックが『巧みな表現をする技法』という意味を持つことです。
レトリックの一つである比喩は、この『巧みな表現をする技法』に含まれることになります。
つまり、比喩の対義語は『巧みな表現ではない技法』を意味します。
なので、比喩の対義語をあえて選ぶとすれば、それは『巧みな表現ではない文章』なのかもしれませんね。
文章がおかしくなるぐらいなら、比喩は使わないほうが良いという意味にも捉えることができそうです。
比喩の使い方を例文で解説
比喩の意味や種類は理解できたと思います。
しかし、それぞれの違いや表現方法の良し悪しを熟知していなければ、比喩を使っても分かりづらい文章になってしまいます。
比喩の使い方を間違わないように、例文でしっかりと覚えていきましょう。
例文
虚ろな目をした人々が歩いてきた。両手を前に出し、手首はだらんと下がっている。髪の毛は抜け落ち、肌が腐敗していた。もはや喋ることはできず、低いうめき声を上げながら襲い掛かってきた。
文章の冒頭は、何があったのかと興味が湧きます。しかし、文章を読み進めていくと、あの名詞が頭に浮かんできますね。
では何故、その名詞で比喩表現をしないのでしょうか。そのほうが、この文章は短く済みます。
例文
人々は、まるでゾンビのように変わり果てた姿となっており、うめき声を上げながら襲い掛かってきた。
『ゾンビ』という名詞を入れるだけで、人々の姿がどのようになっているのかを連想することができます。
『ゾンビ』の一言だけで顔立ちばかりか、服もボロボロになっていることをイメージさせることができるのです。
例文
カラスがハトのように公園を歩いていた。
この例文を見て、どう思ったでしょうか?
違和感を覚えなかった方は、比喩の意味や使い方について、もう一度考える必要があります。
比喩とは、別の表現を用いて言い表すことです。
この例文の書き手は、カラスの歩き方がハトの歩き方と同じだと表現したいようです。
では、その違いとは具体的にどこなのでしょうか? 鳥の歩き方に、どのような違いがあるのでしょうか?
野鳥の生態について研究している人でもない限り、その違いを説明することは難しいと思います。
そのため、多くの読み手はこの文章を読んでも首を傾げてしまうのです。
比喩は、読み手に意味が通じなければ単なる怪文書となりますので、例える必要がなければ無理に使わないようにしましょう。
例文
「僕と彼女は、木村拓哉と工藤静香だ。同級生たちからも羨まれるカップなのだ」
うぬぼれないでいただきたい……とまでは言いませんが、それでもこの文章の比喩はおかしいですね。
これではまるで、ご本人(著名人)たちの会話と錯覚してしまいます。
この例文は、隠喩(暗喩)を使って見たが失敗した典型的な文章でしょう。
ここは、どう考えても直喩を使う必要があります。
例文
「僕と彼女は、まるで木村拓哉と工藤静香のような関係だった。同級生たちからも羨まれるカップなのだ」
これで、幾分かは意味が通じるようになりました。
隠喩は、プロの小説家でも使うのを躊躇うぐらい難しい表現方法なので、素人が無暗に使うと恥ずかしい目に遭います。
例文
彼は、まさに風のようだった。僕を横切り、そして消えていった。
この文章は、ゴール前での出来事を表現しているようです。
『彼』の速さを比喩で『風』と表現しており、申し分ない文章といえるでしょう。
ただ、この文章なら隠喩で表現することも可能ですね。
例文
彼は風だった。僕を横切り、そして消えていった。
このように、隠喩を用いると『彼』の速さがより際立っていますね。
相手が手の届かない存在なら、隠喩を使ったほうが上手く表現することができるのです。
比喩を使ってユーモアな文章を書く
さて、ここまで基本的な比喩表現を紹介してきました。
ただし、有名な比喩をそのまま使ってもユーモアな文章とは言えません。
比喩表現にオリジナリティを出すことで、初めてユーモアな文章となるのです。
月並みの比喩表現は、読んでいても面白くはありません。新人向けの文学賞なら、減点の対象にもなります。
例文
彼は豚のように汗をかいていた。
これは、よくありがちな直喩ですね。誰もが知っている内容なので、残念ながらユーモアな文章とは言えないでしょう。
ユーモアな文章を表現する比喩を考えるとき、比喩の対象となるものの特徴をしっかりと把握することも重要です。
もし、『彼』が臆病者なら、こんな直喩を使うとユーモアな文章となります。
例文
彼は漏らしたように汗をかいていた。
『彼』の特徴がよく出ている文章になりました。お化け屋敷から逃げてきたシーンなら、このような比喩がピッタリでしょう。
ただし、いくらユーモアな文章になっていても、相手に意味が通じなければ比喩としては成立しません。
オリジナリティもありつつ、けれど誰もが知っている表現を考える必要があります。
例文
「ネコがネズミを追いかけ回しているが、二匹ともまるで遊んでいるようだった」
もし、このような文章があったら、どんな比喩が適切でしょうか?
私なら、有名なアニメで比喩するでしょう。
例文
「二匹は、トムとジェリーのように家中を駆けずり回っていた」
『トムとジェリー』は、アカデミー賞を受賞している世界的に有名なアニメです。
今回は、実際のネコとネズミで比喩していますが、人間同士で表現しても面白いでしょう。
アイディア次第で、ユーモアな文章は無限に書くことができるのです。
比喩を学べるオススメの書籍
比喩とは『たとえる』ことです。
その技術をユーモアたっぷりに書かれた『たとえる技術』は、文学に精通していなくても楽しく学べる一冊となっています。
まとめ
比喩とは、例え話です。
書いた文章が長くなりそうなら、読み手がイメージしやすい比喩を考えます。
比喩にも種類があり、あえて比喩だと分かるように書いて印象づける直喩、比喩であることを隠して文章の流れを良くする隠喩(暗喩)など様々です。
これらの比喩を使い分けることで、ユーモアな文章が書けるようになります。
ただし、月並みの比喩を使っても、相手に面白いと思わせることはできません。
例え話にオリジナリティを持たせることで、ユーモアな文章を表現することができます。
ある程度の鍛錬は必要となりますが、知識を増やしていくことで比喩は自然と思いつくようになります。
比喩を表現する上で気をつけなければならないのは、その文章を『例える必要があるかどうか?』と『例え話は辻褄が合うか?』です。
この二点を理解しておけば、比喩を上手く表現することができるでしょう。