古文であれ、英文であれ、覚えなくてはならない長文に出会うことがあります。

 

たくさんの単語を覚えることも一苦労な昨今、そんな長文を短期間で覚えるのは大変な作業です。

 

かくいう私も、学生の頃は長文をどうやって覚えようかと考えていたものです。

 

そんなある日、大学の講義でお寺の住職をしている方と話をする機会がありました。

 

お坊さんといえば、長文の代表である『お経』をスラスラと読む職業でもあります。

 

なので、その住職に「短期間で長い文章を覚える方法はなんですか?」と質問しました。

 

その時に答えてもらった暗記術を紹介します。

 

短期間で長い文章を覚える方法を住職から学ぶ

短期間で長い文章を覚える方法を答えてくれた住職は、曹洞宗の教えを守り続けている方です。

 

曹洞宗は鎌倉仏教の一つに数えられる有名な宗派であり、お寺に詳しくない方でも永平寺ぐらいは聞き覚えがあるはずです。

 

曹洞宗の本山である永平寺で修行を積むことで一人前と認められ、晴れて地元のお寺などで教えを説くことができるのです。

 

その住職もまた、同じく修行のために永平寺へ赴いたといいます。

 

ただ、最初からお坊さんになりたかったわけではなかったようです。突如、長男が違う道を志してしまったため、実家の跡取りがいなくなり、次男だった住職に白羽の矢が立ったのです。

 

そのため、なんの知識もないまま修行に入ったため、様々な苦労をしなければなりませんでした。

 

格別、勉強ができたわけではなかったので、お経を覚えることも大変だったといいます。

 

曹洞宗では、『般若心経』を覚えなければなりません。

 


摩訶般若波羅蜜多心経まかはんにゃはらみたしんぎょう

観自在菩薩 かんじざいぼさつ  行深般若波羅蜜多時 ぎょうじんはんにゃはらみったじ  照見五蘊皆空 しょうけんごうんかいくう  度一切苦厄 どいっさいくやく  舍利子 しゃりし  色不異空 しきふいくう  空不異色 くうふいしき  色即是空 しきそくぜくう  空即是色 くうそくぜしき  受想行識亦復如是 じゅそうぎょうしきやくぶにょぜ  舍利子 しゃりし  是諸法空相 ぜしょほうくうそう  不生不滅 ふしょうふめつ  不垢不浄 ふくふじょう  不増不減 ふぞうふげん  是故空中 ぜこくうちゅう  無色 むしき  無受想行識 むじゅそうぎょうしき  無眼耳鼻舌身意 むげんにびぜっしんい  無色声香味触法 むしきしょうこうみそくほう  無眼界 むげんかい  乃至無意識界 ないしむいしきかい  無無明 むむみょう  亦無無明尽 やくむむみょうじん  乃至無老死 ないしむろうし  亦無老死尽 やくむろうしじん  無苦集滅道 むくしゅうめつどう  無智亦無得 むちやくむとく  以無所得故 いむしょとくこ  菩提薩埵 ぼだいさった  依般若波羅蜜多故 えはんにゃはらみったこ  心無罣礙 しんむけいげ  無罣礙故 むけいげこ  無有恐怖 むうくふ  遠離一切顛倒夢想 おんりいっさいてんどうむそう  究竟涅槃 くきょうねはん  三世諸仏 さんぜしょぶつ  依般若波羅蜜多故 えはんにゃはらみったこ  得阿耨多羅三藐三菩提 とくあのくたらさんみゃくさんぼだい  故知般若波羅蜜多 こちはんにゃはらみった  是大神呪 ぜだいじんしゅ  是大明呪 ぜだいみょうしゅ  是無上呪 ぜむじょうしゅ  是無等等呪 ぜむとうどうしゅ  能除一切苦 のうじょいっさいく  真実不虚 しんじつふこ  故説般若波羅蜜多呪 こせつはんにゃはらみったしゅ  即説呪曰 そくせつしゅわつ 
羯諦羯諦 ぎゃていぎゃてい  波羅羯諦 はらぎゃてい  波羅僧羯諦 はらそうぎゃてい  菩提薩婆訶 ぼじそわか 
般若心経 はんにゃしんぎょう 


 

普通なら修行前に覚えてくるものなので、できなかったのは同期の中で一人だけだったそうです。

 

辛い修行生活の中で、長文の『般若心経』を覚えようと努力しましたが、すぐには報われませんでした。

 

そんなとき、指導係である先輩に教わった方法で暗記することができるようになったそうです。

 

まず、声に出して読むこと。文章は目で追うだけでなく、口に出して読むことで耳に入り、脳に残りやすくなります。

 

次に写経、つまり書き写すこと。一つ一つの言葉を書き綴ることで、その順番を覚えていきます。

 

そして、もっとも大事なのが長文の意味を知ること。「馬に念仏」とはよく言ったもので、意味を知らないものを聞いていても頭に入るわけがないのです。

 

『般若心経』の長文を見ても分かるとおり、難しい漢字が並んでいるため、何が書いてあるのかまったく分かりません。

 

そのため、大抵の人は目にしただけで覚える気が失せてしまいます。

 

でも、その意味を知ることができれば、どうしてその漢字が使われているのか、どうしてその並びになっているのかが理解することができるのです。

 

ちなみに、『般若心経』とは『存在が存在することの意味を説いたお経』です。

 

実はこれ、観音菩薩が『存在』について悟ったことを書き記した文章なのです。

 

観音菩薩は「自分が存在するとはどういうことなのか」という疑問を真剣に悩み、考えたところ、一つの真実にたどり着いたのです。それこそ、『般若心経』というわけです。

 

物体とは?の説明から始まり、果ては精神作用とは何なのかを論じている文章であり、現代の論文のような内容が書かれています。

 

そう考えると、住職は『般若心経』が面白くなったそうで、『般若心経』の教えを熱心に覚えるようになりました。

 

すると、知らず知らず内容が頭に入ってくるようになり、長文の『般若心経』を短期間で覚えることができたのです。

 

まとめ

小説を読んでいると、気づかぬうちに頭の中で映像がイメージされていることがあります。

 

この現象こそ、短期間で長い文章を覚えるために必要なものです。

 

物語を映像としてイメージすることで、文章の内容を覚えることができるからです。

 

そのため、長文であっても頭に残りやすくなります。

 

  • 文章を声に出して読む
  • 文章を書き写す
  • 文章の内容をイメージする

 

これらのことを意識して行えば、短期間で長い文章を覚えることができるのです。